大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8275号 判決 1967年11月28日

原告 福寿商工株式会社

右代表者代表取締役 堀井とよみ

右訴訟代理人弁護士 安藤一二夫

同 岡田貴公

同 中津林

右訴訟代理人弁護士 中井秀之

被告 秋葉英雄こと 河咏柱

右訴訟代理人弁護士 佐々木秀雄

主文

一、被告(貸主)、訴外堀井徳治(借主)間に昭和四一年五月二四日締結した貸金元本四〇万円の金銭消費貸借契約について、右同日原、被告間に締結の連帯保証契約にもとづき、原告が被告に対し金三五万九、五八四円およびこれに対する(イ)昭和四一年七月三〇日につき年一割八分、(ロ)同年八月一日より完済にいたるまで年三割六分の各組合による金員の支払義務を超える債務の存在しないことを確認する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一申立

1、請求の趣旨(原告の申立)

一、被告(貸主)、訴外堀井徳治(借主)間に昭和四一年五月二四日締結した貸金元本四〇万円の金銭消費貸借契約について右同日原、被告間に締結の連帯保証契約にもとづく債務が存在しないことを確認する。

二、被告は原告に対して、別紙物件目録に記載の不動産に対する、(a)東京法務局品川出張所昭和四一年六月一六日受付第一三、九四七号根抵当権設定仮登記、(b)同局同出張所同年同月同日受付第一三、九四八号所有権移転仮登記および(c)同局同出張所同年同月同日受付第一三、九四九号停止条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

2、被告の申立

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張と答弁

1、請求の原因(原告の主張)

一、(イ)被告は原告に対して、「被告(貸主)と訴外堀井徳治(借主)との間に昭和四一年五月二四日締結した貸金元本四〇万円の金銭消費貸借契約について右同日原、被告間に締結した連帯保証債務にもとづく債権を有する」と主張する。(ロ)しかし、原告は被告に対して右主張のごとき債務を有しないので、これが不存在の確認を求める。

二、(イ)原告は別紙物件目録に記載の不動産の所有権者であるところ、右不動産につき、(a)東京法務局品川出張所昭和四一年六月一六日受付第一三、九四七号根抵当権設定仮登記、(b)同局同出張所同年同月同日受付第一三、九四八号所有権移転仮登記および(c)同局同出張所同年同月同日受付第一三、九四九号停止条件付賃借権設定仮登記がなされている。(ロ)しかし、原告は被告のため右仮登記に対応する契約をしたこともなければ、該仮登記をすることにつき承諾を与えたこともないので、右不動産の所有権にもとづき被告に対しこれが抹消登記手続をなすべきことを求める。

2、請求の原因に対する答弁

一、請求の原因第一項のうち、(イ)の事実は認める、(ロ)は争う。

二、同第二項のうち、(イ)の事実は認める、(ロ)は争う。

3、抗弁(被告の主張)

一、被告は昭和四一年五月二四日訴外堀井徳治に対して、金四〇万円を、弁済期は同年六月二日、利息日歩二七銭、損害金日歩五〇銭の約で貸し渡したが、即日原告は右債務につき連帯保証する旨を約した。

二、しかるに、訴外堀井は被告に対し約定弁済期の昭和四一年六月二日に債務を弁済することができなかったため、右同日までの約定利息一万〇、八〇〇円および手数料二万円、合計三万〇、八〇〇円を支払っただけで、弁済期の延期を求めたため、右当事者合意のうえこれを一〇日後の同年同月一二日まで延期した。

三、そして、訴外堀井は右債務の損害金として、昭和四一年七月二三日に金一万円、同年八月中に金一万二、〇〇〇円を支払っただけで、その後元本およびその余の損害金を支払わない。

四、また前記第一項の金銭消費貸借に際し、原告会社は被告に対し該債務を弁済期までに支払わないときは、本件不動産につき、限度額二〇〇万円の根抵当権設定、停止条件付代物弁済による所有権移転および停止条件付賃借権設定をする旨ならびにそれらにつき仮登記をなすことを約し、かつ、右仮登記申請手続に必要とする原告名義の白紙委任状、印鑑証明書などを交付した。

しかるに、訴外堀井らにおいて前記債務を弁済期までに弁済しなかったため、約旨にしたがって請求の原因第二項の(イ)に記載のとおりの仮登記をしたのである。

4、抗弁に対する答弁

一、抗弁第一項の事実は否認する。

もっとも、訴外堀井が昭和四一年五月二四日秋葉英雄と訴外泉商事から、金四〇万円を、利息は一〇日ごとに一割、弁済期は一〇日後の同年六月二日との約で借り受け、かつ、原告が即日右債務につき連帯保証する旨を訴外泉商事に約したことはある。しかし訴外泉商事は被告を指称するものではない。なお、訴外泉商事は右借受当日、貸付金四〇万円のうちから一〇日間の先払利息として金四万円を控除し、残額三六万円だけを現実に訴外堀井に交付したから、右金銭消費貸借は金三六万円の限度で成立したにとどまり、利息は利息制限法の定めるところにより当然に年一割八分に減額される。

二、同第二項の事実は否認する。もっとも、訴外堀井が訴外泉商事に対する前記債務を約定弁済期の昭和四一年六月二日に弁済できなかったこと、右弁済期を当事者合意のうえ一〇日後の昭和四一年六月一二日まで延期したことはある。また右弁済期はその後再三延長され、最終の期日は昭和四一年八月三一日まで延期された。

三、同第三項の事実は否認する。もっとも、訴外堀井は訴外泉商事に対し前記借受金の利息内入として、(a)昭和四一年六月一〇日に金三万〇、八〇〇円、(b)同年七月一二日に金一万二、〇〇〇円、(c)同年同月二三日に金一万円、(d)同年同月二九日に金一万二、〇〇〇円、以上合計六万四、八〇〇円を支払ったことはある。したがって、上述のとおり訴外堀井の訴外泉商事に対する債務は元本三六万円であり、これに対する利息は年一割八分であるから、借受日たる昭和四一年五月二四日より最終弁済期たる同年八月三一日までの約定利息は金一万六、三四四円にすぎない。しかるところ、同じく上述のとおり訴外堀井はすでに訴外泉商事に対して利息内入として合計六万四、八〇〇円を支払っているから、これから右利息一万六、三四四円を控除した残額四万八、四五六円は元本に組み入れられ、元本残額は金三一万一、五四四円である。

四、同第四項の事実は否認する。もっとも訴外堀井が訴外泉商事より金員を借り受けるに際し、原告名義の白紙委任状、印鑑証明書など登記に必要な書類を被告に交付したことはあるが、それは被告において登記申請手続をさせるために交付したものではない。

5、再抗弁(原告の主張)

仮に訴外泉商事が被告と同一であるとすれば、訴外堀井と被告らとの間に締結された金銭消費貸借契約および仮登記設定契約は、右訴外人の窮迫、軽卒、無思慮に乗じ、被告において故なき巨利を博するためにされた桁外れの暴利行為であるから、公序良俗に違反し、法律上その効力を生ずるに由ないものである。

6、再抗弁に対する答弁

再抗弁事実は争う。

第三証拠関係<省略>。

理由

第一、債務不存在確認の請求について

一、被告が原告に対して、「被告(貸主)と訴外堀井徳治(借主)との間に昭和四一年五月二四日締結した貸金元本四〇万円の金銭消費貸借契約について右同日原、被告間に締結した連帯保証債務にもとづく債務を有する」と主張しており、被告がこれを否定していることは当事者間に争いがない。

二、そこで被告の抗弁について案ずるに、被告は昭和四一年五月二四日訴外堀井に対して、金四〇万円を、弁済期は同年六月二日、利息日歩二七銭、損害金日歩五〇銭の約で貸し渡したと主張するところ、原告はこれを争い、訴外堀井は昭和四一年五月二四日訴外泉商事より金四〇万円を、利息は一〇日ごとに一割、弁済期は一〇日後の同年六月二日との約で借り受けたと述べている。そこで被告と右訴外泉商事との関係について検討してみるに、<証拠省略>を総合すると、被告は外国籍を有するものであって、日本における通名を秋葉英雄と称しているものであるか、昭和四一年五月五日頃訴外宇城孝司と相ともに協力して泉商事なる名称で金融業を始め(個人営業)、本件金員貸借については被告が貸付主体として泉商事なる名称で訴外堀井と取引したことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがって本件においては訴外泉商事とは被告のことを指称するものとして判断する(以下これに同じ)。

そうだとすると、被告が昭和四一年五月二四日訴外堀井に対して金四〇万円を、弁済期は同年六月二日の約で貸し渡したことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によると、右貸付金の利息は日歩二七銭であり、弁済期後の遅延損害金は日歩五〇銭の額であったことが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。そして、右金銭消費貸借のあった日に、原告が該貸借にもとづく、訴外堀井の債務につき連帯保証する旨を被告に約したことは当事者間に争いがない。

なお、原告は訴外堀井が右金員を借り受けるにあたり、被告は貸付金四〇万円のうちから一〇日間の先払利息として金四万円を控除し、残額三六万円を現実に交付したにとどまると抗争するが、右主張にそう原告会社代表者本人尋問の結果はたやすく信用できず、他にこれを認めるに足る証拠がなく、かえって被告本人尋問の結果によれば、その際被告は訴外堀井に現金で四〇万円全額を交付したことが認められる。

したがって、被告と訴外堀井との間には金四〇万円を元本とし、弁済期を昭和四一年六月二日とする金銭消費貸借の成立があったものと認められるが、利息制限法の定めるところにより、その約定利息は年一割八分、弁済期後の約定損害金は年三割六分の限度まで有効であるが、これを超過する約定部分はその効力なきものといわなければならない。

三、つぎに訴外堀井が被告に対し弁済期の昭和四一年六月二日に債務を弁済できなかったこと。右弁済期を当事者合意のうえ一〇日後の同年同月一二日まで延期したことは当事者間に争いがない。

被告は、訴外堀井が昭和四一年六月一〇日被告に対し本件借受金の利息内入として昭和四一年六月一〇日に金三万〇、八〇〇円を支払ったと主張するが、これを認めるに足る証拠がないが、前示甲第一号証および被告本人尋問の結果によると、訴外堀井は被告との約定にもとづき、昭和四一年六月一日訴外宇城孝司を介し被告に対して、借受日以後の約定利息として金一万〇、八〇〇円(日歩二七銭)の割合および手数料二万円、合計二万〇、八〇〇円を支払ったことが認められる。

ところで、金銭消費貸借上の利息に関する約定が利息制限法所定の範囲を超えるときは、その超過部分の約定は無効とされるのみならず、現実に超過利息の支払があったときは超過部分は元本の支払に充てたものとみなされるものと解するのが相当であり、また金銭消費貸借に関して債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもってするを問わず利息とみなされるものと定められている(利息制限法第一条、第三条参照)。しかして、前記貸金四〇万円に対する制限利息は前示のとおり年一割八分であり、右貸金に対する昭和四一年五月二四日より同年六月二日まで九日間の利息が金一、七七五円であることは計数上明らかである

(40万円×0.18×9/365=1,776円。円位の下は切捨,以下これに同じ)から、前示三万〇、八〇〇円のうち右金一、七七五円は利息の支払に充当されるが、これを超過する残額二万九、〇二五円は元本の支払に充てられたものとみなすべきであるから、結局昭和四一年六月一日現在の貸金元本残額は金三七万〇、九七五円であるといわねばならない。

また被告は、前記借受金の弁済期が数次にわたり当事者合意のうえ延長され、昭和四一年八月末日まで延長された旨主張するのでこれを審究するに、被告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。しかしながら、前示甲第四号証および被告本人尋問の結果によると、本件金銭貸借にあたり、被告の要請により訴外堀井は右債務の支払を担保する一手段として昭和四一年七月三〇日を支払期日とする額面五〇万円の約束手形一通を交付し、もし右支払期日までに債務の弁済がなされないときは本件不動産を処分して弁済に充てる旨の合意のあったことが認められ、該事実によれば少なくとも被告は本件債務の最終弁済期日を右手形の支払期日まで猶予していたものとみるのが相当である。

四、さらに、(a)訴外堀井が被告に対し本件債務の利息に充てるため昭和四一年七月二三日に金一万円を支払ったことは当事者間に争いがなく、(b)前示甲第二号証および被告本人尋問の結果によると、訴外堀井が被告に対し同じく利息にあてるため昭和四一年七月二九日に金一万二、〇〇〇円を支払ったことが認められる。(c)そのほか原告は訴外堀井が被告に対し同じく利息に充てるため昭和四一年七月一二日に金一万二、〇〇〇円を支払ったと主張するが、これを認めるに足る証拠がない。

そこで右認定の事実から利息の支払および元本充当の関係について検討する。(A)昭和四一年七月二三日に支払われた金一万円は、前示貸金元本残額三七万〇、九七五円に対する同年六月二日より同年七月二三日まで五二日間の利息に充当されるべきところ、その間の年一割八分の制限利息が金九、五一三円であることは計数上明らかである(370,975円×0.18×32/365=9,513円)から、右支払にかかる金一万円の内金九、五一三円は利息に充当されるが、残額四八七円は元本の支払に充てたものとみなされるため、昭和四一年七月二三日現在における貸金元本残額は金三七万〇、四八八円となる。(B)つぎに昭和四一年七月二九日に支払われた金一万二、〇〇〇円は右貸金元本残額三七万〇、四八八円に対する昭和四一年七月二四日から同年同月二九日まで六日間の利息に充当されるべきところ、その間の年一割八分の制限利息が金一、〇九六円であることは計数上明らかである(370,488円×0.18×6/365=1,096円)から、右支払にかかる金一万二、〇〇〇円の内金一、〇九六円は利息に充当されるが、残額一万〇、九〇四円は元本の支払に充てたものとみなされるため、昭和四一年七月二九日現在における貸金残額元本は金三五万九、五八四万円となる。

なお、原告は右のほか訴外堀井らにおいて前示債務の元本、利息、損害金を支払ったことについては何ら主張立証しないか前示のとおり本件借受金債務の弁済期は昭和四一年七月三〇日であるから、同日(一日)に対する約定利息は年一割八分であり、右弁済期の翌日たる同年八月一日から弁済に到るまでの約定遅延損害金は利息制限法所定の範囲内に減縮した年三割六分の限度で効力を有する。

第二根抵当権設定仮登記等抹消登記の請求について

一、原告が本件不動産の所有者であり、右不動産につき原告主張のごとき仮登記があるのは当事者間に争いがない。

二、そこで被告の抗弁について案ずるに、(イ)前示のとおり原告が訴外堀井の前示借受金債務について連帯保証したこと、(ロ)訴外堀井が被告より右金員を借り受けるに際し、原告名義の白紙委任状、印鑑証明書など登記に必要とする書類を被告に交付した旨を原告が認めていること、右の各事実に(ハ)<証拠省略>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和四一年五月二四日自己の負担する前示連帯保証債務を担保するため、訴外堀井を代理人として、被告に対し本件不動産につき、限度額二〇〇万円の根抵当権設定、停止条件付代物弁済による所有権移転および停止条件付賃借権を設定する旨ならびにそれらにつき仮登記をする旨を約し、かつ、右仮登記申請手続をするために必要な白紙委任状、印鑑証明書等を交付し、その手続を被告において適宜なすことに同意したこと、右約定にしたがって被告において原告主張のごとき仮登記申請手続をなしたことが認められ、右認定に反する原告会社代表者本人尋問の結果(前示措信する部分を除く)は信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない

第三再抗弁について

前に認定したとおり本件金銭消費貸借における利息は日歩二七銭であって相当高率であり、また原告会社代表者本人尋問の結果および被告本人尋問の結果によれば、訴外堀井が被告より本件金員を借り受ける当時、銀行取引の停止を免がれるため金員借用の必要に迫られていた事実が認められるが、右契約およびこれに付帯する契約が訴外堀井の窮迫、軽卒、無思慮に乗じて締結されたことはこれを認めるに足る証拠がない。また原告の主張するごとく本件契約が桁外れの暴利行為であるとしても、本件貸金の利息および損害金は当事者間の約定いかんにかかわりなく、利息制限法所定の範囲内においてのみ認容されるにとどまること前示のごとくであるから、利息および損害金が高率であることの故に本件法律行為の効力全部を失わしめるべきものとは解せられない。その他本件における全証拠を精査してみても、本件金銭消費貸借およびこれに付帯する契約が公序良俗に反すると認めるに足るものがない。

したがって、原告の再抗弁はこれを採用することができない。

第四結論

前に第一において認定したところによれば、被告と訴外堀井との間で昭和四一年五月二四日締結した前示金銭消費貸借契約にもとづく主債務についての原告の連帯保証債務の元本残額は金三五万九、五八四円であり、したがって、原告は被告に対し右元本残額およびこれに対する(イ)昭和四一年七月三〇日につき年一割八分の割合による約定利息、(ロ)同年八月一日より完済にいたるまで年三割六分の割合による約定遅延損害金の支払義務があるといわねばならない。また前に第二において認定したとおり本件不動産についてなされた原告主張の仮登記はいずれも適法になされたものであり、原告が被告に対しこれが抹消登記手続をなすべきことを求める理由がない。<以下省略>。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例